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TVACニュース

(2009年6月23日 / 河村暁子 )

TVACレポート

東京ボランティア・市民活動センター
「NPO組織強化プロジェクト2009」レポート〜ビジネスのプロと一緒に、不況の中でも成長しよう!〜

キーワード
NPO 、 組織強化 、 マネジメント 、 資金づくり 、 企業 、 協働

世界的な不況により社会課題は拡大・深刻化しており、NPOへの期待が高まっているが、行政や企業、市民からの支援も厳しくなっています。しかし、その中でもNPOは支援者や資金を拡大しつつ、成長していかなければなりません。本プロジェクトでは、ビジネスのプロフェッショナルと一緒に、『NPOの3ヵ年経営戦略』を作成し、さらに、その中から生まれたいくつかの企画については、企業人・大学生のボランティア・チームと共に実現化に取り組みます。


すでに、「国際セミナー」、「NPOのためにビジネス基礎講座」、「NPOのためのビジネス応用講座」を実施し、この7月から、5つのNPOとビジネス・ボランティア・チームとの実践が始まろうとしています。今までの取り組みと、これからの予定についてレポートします。なお、本プロジェクトはゴールドマン・サックス証券株式会社のご支援により、参加費は全て無料となっています。


主催: 東京ボランティア・市民活動センター(以下、TVAC)

協力: 次世代グローバルリーダー育成道場(以下、YGL)

特別協賛: ゴールドマン・サックス証券株式会社(以下、GS)


◆1. 国際セミナー「単なる“生き残り”からその先へ-経済危機の中でNPOが成長するための鍵」

インサイツ・イン・アクション(Insights in Action)代表 デボラ・マクグラフリン 氏


画像インサイツ・イン・アクション(Insights in Action)代表 デボラ・マクグラフリン 氏

去る2月20日(金)夜7時〜9時、飯田橋にあるTVAC会議室において、米国のNPOコンサルタント会社代表、デボラ・マクグラフリンさんをお招きし、不況下でも成長していけるNPOはどのような戦略をもち、組織づくりをしているのかについてお話しいただいた。デボラさんは、世界各地のNPOの戦略的計画づくり、資金調達、理事会の強化などの組織強化に豊富な経験を持ち、日本のNPOセクターとの関わりも深い。会場は120名を越えるNPOや中間支援組織、ビジネスマンで溢れかえった。


デボラさんは、米国におけるNPOの厳しい状況について触れながら、こうしたときだからこそ、「壮大で大胆な発想」と「焦点を絞った実現可能な計画」が必要であると言い切った。ひとつの米国での事例として、4人のスタッフしかいない小さなNPO(Corporation for Enterprise Development)が、州政府の経済投資に関する評価基準に疑問をもち、教育や労働政策、社会の基盤整備などに力を入れている州こそもっと高く評価するべきだとして、新しい基準を作り、州や企業・労働組合を巻き込みながら、社会的に認知されていく取り組みを紹介した。


また、米国のNPOは資金源の多様化に努め、個人や組織からの寄付や助成金だけでなく、収益事業にも力を入れていると話す。さらに、日本のNPOセクターの課題として、ミッションを達成するために自由に使える資金が少ないと指摘した。その原因としては、会費で支える会員が少ないこと、米国と違って、各種助成金が組織の運営経費やその事業のために間接的にかかる経費(overhead)などをカバーしていないことをあげる。


つまり、NPOがビジネスから学ぶべきことは、マーケティングやコミュニケーション、ブランディングなどのスキルやプロフェッショナリズムだけでなく、それ以上に、こうした自分たちで自由に使える縛りのない運営資金を確保すること、そして、多様な収入により、NPOの事業支出を完全にカバーし、赤字を出さないことであるとした。


また、同時に、NPO同士が協働することの大切さも強調した。例えば、スタッフやスペース、物品を共有したり、あるいは、NPOが他のNPOに事業を発注して「NPO経済」を生み出すことなどだ。


参加者からは、「競合相手でもある他のNPOとどう協働するのか?」、「目の前にいる人たちを支援することで精一杯で、大きなビジョンをもつことは難しいがどうしたらよいのか?」といった具体的な質問が寄せられ、大変な状況の中でもビジネス・セクターやNPOセクターがつながりながら活路を見出し、成長していこうという意欲の高まりが感じられた。



◆2. NPOのためのビジネス基礎講座 「伝える技術を身につけよう!」

社団法人 日本秘書協会 理事 河田えり子氏


画像社団法人 日本秘書協会 理事 河田えり子氏

続いて、3月6日(金)夜7〜9時、TVAC会議室において、NPOが企業、行政、市民からの理解と支援を拡大するために、基本的なビジネスマナー(電話のかけ方、訪問の仕方、名刺の渡し方など)や、プレゼンの仕方など、ビジネスでのコミュニケーションの基礎を学ぼうという講座を開催した。参加者は約80名。講師は、プロのトレーナーであり、企業で広報やCSRも担当する河田えり子さんだ。


河田さんは、「NPOがとてもよい活動をしていても、ビジネスマナーやプレゼンの基本を知らないために損をしていることが多い」と話し始めた。そして、企業はこうした不況の中でもCSRや社会貢献活動をしていることをアピールしつつ、さらなる事業拡大を目指しているので、積極的にアプローチしようと参加者にエールを送った。


企業へのアプローチは、まずは「好感」を持ってもらい、そして、活動に「共感」してもらうことが大切とし、そのプロセスでのポイントを非常に具体的に教えてくれた。例えば、企業にコンタクトする前は、その企業について調べておくことや、紹介してもらえる人をさがすこと。「会社を退職して5年以内の方だと、時間的な余裕もあり、愛社精神が強いので、紹介してもらいやすい」といったヒントまで。さらに、企業へのアポイントの取り方の裏業から、訪問の際の好ましい身だしなみ、持参する物、そして、訪問した際の態度やプレゼンの内容まで、非常に詳細な内容であった。


講義の後には、会場からNPOの立候補を募り、本プロジェクトのスポンサーであるGSで社会貢献を担当する平尾さんを相手に、プレゼンを試みた。それに対して、平尾さんから、ミッションと事業の関連、事業の将来構想、具体的な寄付額と使途、寄付終了後の事業展開など、鋭い質問が次々と飛んでくる。そのスピード感とリアルさに「足がふるえるほど緊張しました。」と、プレゼンしたNPO。平尾さんからは、「ミッションと事業についてもっとわかりやすく説明してほしい。そして、すぐに実現しなくても、大きな夢を語ってほしい。」と、アドバイスと激励があった。


全体での質疑応答の後、講師の河田さんからは、「支援を受けた後、それがどのように活かされたのか、具体的な成果や受益者の感想をまとめて、お礼と報告をすることが、その後の継続的な関係をつくっていく上でとても大切。1つの企業とよい関係ができれば、他の企業にもつながっていく。」とのコメントがあり、また、平尾さんは、「事前にその企業のことをホームページなどで調べ、訪問したら、その企業の関心や希望をさらに詳しく知るために、積極的に質問することが必要。また、お互いに強みだけでなく、課題も共有することでよりよい協働関係ができると思う」と、まとめた。



◆3. NPOのためのビジネス応用講座「3ヵ年の経営戦略を考えよう!」

NPO法人 次世代グローバルリーダー育成道場(Young Global Leaders Japan :YGL Japan)


画像次世代グローバルリーダー育成道場(Young Global Leaders Japan :YGL Japan)と参加者

そして、いよいよ、ビジネスの応用講座(連続5回)が3月からスタートした。応募のあった60団体から25団体が選ばれ、参加した。講師陣はMBA(ビジネス修士)をもち、ビジネスの第一線で活躍するプロフェッショナルたちと大学生で構成されるNPO。毎回、最初の30分の講義では、ビジネスの基本的な考え方や方法をNPOに紹介し、その後、参加者は5つのグループにわかれ、YGLのメンバーや他のNPOと、どのようにNPOに活用できるかについて、熱心なディスカッションを行った。


YGLは生まれたばかりのNPOだが、昨年末にはTVACと一緒に7つのNPOを訪問した後、多くのNPOの人たちと会い、NPOの現状や課題を把握してきた。また、各回の講義内容については、事前に参加者に課されたホームワークを分析しつつ、TVACやGSからのフィードバックも参考にしながら作られていった。そして、当日のプレゼン、ファシリテート、記録、参加団体の課題整理まで、まさにプロフェッショナルであった。


◆第1回 目標と課題の整理

ミッション・ビジョンと連動した目標設定が団体の力を生み出す。大きな目標の実現のためには、短期的な視点、長期的な視点、収益確保の視点が重要とし、SWOT分析シートによる各団体の「強み」「弱み」「機会」「脅威」の把握と、戦略の立て方について学んだ。


◆第2回 収益向上戦略

ミッション達成のためには、「収益事業」「会費・寄付」「助成金」といった資金源のバランスをとることが重要である。この回では、既存の収益事業についての現状把握とその新たな展開についての考え方と手法を学んだ。


◆第3回 マーケティング的発想を活かす〜個人の寄付者・会員の獲得・維持に向けて〜

NPOのミッションを支える寄付者や会員といった個人へのアプローチについて、ビジネスがどのように顧客やマーケットを分析し、相手にあわせたサービスを展開しているのか、また、企業が1度きりの顧客に対してどのように働きかけ、継続的なファン=会員になってもらうのか、その手法が紹介された。


◆第4回 営業戦略

NPOを支えてくれる組織にはさまざまなものがあるが、その中から企業を取り上げ、企業がNPOを支援する「理由」を考え、支援しやすい「形」を提供し、継続して支援してくれるようにケアすることを、ロールプレイも行いつつ、理解した。


◆第5回 3ヵ年の経営戦略とまとめ

最終回は、応用講座の総まとめとして、経営計画の意義とメリット、策定方法、利用方法が紹介され、それぞれのNPOの3ヵ年経営戦略が完成した。全5回の講師に対する質疑・応答の後、すべての回に参加した団体には「修了証」が主催者から贈呈され、さらに、全参加者にはTVACオリジナル煎餅の「ぼらせん」がプレゼントされた。交流会では、知的障害者の働くスワンベーカリーのパンとソフトドリンクを取りながら、互いの成長や今後の協働を約束して別れた。


応用講座の参加者のアンケートは、毎回、非常に満足度が高い。「ビジネスから新しい視点やスキルを学んだ」「自分たちの課題が整理された」「他のNPOから学ぶことも多かった」「毎回、事前にホームワークもあり大変だったけれど、他のメンバーと一緒に取り組むことで力になった」と、記されている。

また、当初は自分たちの団体紹介が非常に長かったところも、1分間で、ミッション・ビジョン・活動内容が紹介できるプレゼン能力を高めたり、グループワークでのディスカッションについても限られた時間の中で多くの意見交換ができるようになっていった。

講座終了後には、参加した団体から主催者に多くのお礼のメールが届き、「今回学んだことを組織に戻って他のメンバーと一緒に実践していきたい」とつづられている。



◆4. 経営戦略実行100日間プログラム いよいよ開始!

ビジネス・プロフェッショナルとNPOとが「変化」を起こす


去る6月12日、上記の応用講座で作られたNPO3ヵ年経営戦略の中から、5つの団体のものが選ばれた。そして、その第一歩となる「経営戦略実行100日間プログラム」が7月11日から始まる。5団体には、YGLのメンバーであるビジネスのプロたちと大学生、そして、GSの社員ボランティアが加わった5〜7名のボランティア・チームが出向き、NPOの経営戦略についてアドバイスしながら、その実現化をサポートする。


実施期間は、7〜9月の3ヶ月。最終回の2009年9月26日には、それぞれの団体の取り組みと成果を発表する。参加希望の方は、下記まで。


主催および問い合わせ先:東京ボランティア・市民活動センター

NPO組織強化プロジェクト担当(河村、近江)

〒162-0823 新宿区神楽河岸1-1 TEL:03-3235-1171 FAX:0303235-0050

E-mail: center@tvac.or.jp URL: http://www.tvac.or.jp


特別協賛:ゴールドマン・サックス証券株式会社

ゴールドマン・サックスは企業市民としての社会的責任を大切に考え、組織の持てる資源を活かして様々な地域社会への貢献とボランティア活動への支援を行っています。こうした取り組みは、ゴールドマン・サックスの持続的発展可能な社会作りへのコミットメントを示すものであり、社会貢献活動をより効果的に行うため、総合的かつ戦略的な活動計画のもと、運営されています。


協力:次世代グローバルリーダー育成道場(YGL Japan)

YGL Japanのミッションは、社会貢献(ソーシャル)分野における次世代グローバルリーダーの育成・支援。次世代リーダーとともに社会問題解決施策の提案・実践等を行い、より良い社会の構築に貢献する「世界中から信頼されるNPO」へ成長することを目指す。今回の応用講座の講師はYGL Japan理事たちがつとめ、「100日プログラム」には企業人や大学生のメンバーたちが参加する。

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