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(2005年10月5日 / 菅野道生 )

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ハイサイ!ボラ市民レポートfrom沖縄〜其の参

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最終回の今回は、この沖縄の超強力なコミュニティを支える『字(あざ)』の仕組みを紹介します。

字というのはいわゆる町内会・自治会のことです。もちろんこうした伝統的な地域住民組織はどこにでもあります。でも沖縄の字は普通の町内会とはちょっと違ってて、なんだかとってもスゴいんです。

以下、私が訪問した読谷村(よみたんそん)を例に見てみましょう。

読谷村には、現在22の字があります。それぞれの字が公民館を持っていて、そこが字の活動の拠点です。

写真はとある字の公民館です。

海岸沿いに広がる近代的な建物は、広々としたグラウンド、会議室、体育館、資料室、調理室などを完備。伝統芸能(エイサーや三味線、唄、獅子舞など)、ミニデイサービス、地域のまつり、健康教室などなど多様な住民活動の拠点となっています。

また各字には区長、書記、会計の役職が置かれています。これは住民による投票で選ばれる任期制の「有給職員」です。給料は字費(町会費)と行政補助で賄われています。字によってはこうした役職員以外にも、事務職員として住民が働いています。住民税も字を通じて徴収されているんだそうです。いわば住民たちが自前で地域の出張所を運営しているようなイメージです。

もちろん行政から頼まれる仕事だけではなく、こうした字の仕組みを通じて子ども会、婦人会、青年会、老人会など世代別のグループが日頃からとても活発に活動しています。字という単位が、住民の日常生活のなかで大きな拠り所になっていて、濃密で強力なコミュニティを生みだしているのです。

字の大人たちは夜な夜な集まっては泡盛を飲みながら、字の行事や今後について語り合います。「最近、子ども会の調子はどう?」、「浜辺で『夕焼けコンサート』をやろう」、「ずいぶん前に伝承が途絶えた、あの踊りを復活させよう」、「○○さんたちが最近こんなこと始めたらしい」などなど、話題は尽きません。こうして大人たちによる非公式な「まちづくり作戦会議」は深夜まで続き、あれこれ出されたアイデアは字を通じて実行に移されていきます。

普通の住民が自分たちの「まち」について、楽しく熱く語り合うのがここでは当たり前の日常です。でもそれは、以前は日本中どこでも見られた普通のコミュニティの姿であったはず・・・。都市で生活する私たちが決定的に無くしてしまったものが、ここではごく当然のものとして人々の生活のなかに息づいています。

実はこうした字の活動も、近年未加入世帯が増加するなかで大きな岐路に立たされているそうです。都市化にともなうライフスタイルや意識の変化は、沖縄といえども例外ではないとのこと。字によっては年間2万円近い「字費」(町会費のようなもの)を出し合います。また、日常的に共同体のメンバーとしていろいろな役割を果たすことが求められます。こうした字のあり方は、人によっては確かに窮屈に感じてしまう面もあるでしょう。コミュニティのカギを握るこの仕組みを、今後どう維持・発展させていけるのかは大きな課題です。

それでも、字を中心とした沖縄のコミュニティの姿は私にはとても魅力的に見えました。

哲学者の内山節さんによれば、「コミュニティというのは人為的に『つくる』ことはできない。それは人々の共同行動を通じて、『自然に発生する』もの」だそうです。

優しくて、明るくて、そしてとても濃密な沖縄のコミュニティ。そこで生活する人々の姿に触れて、「本当に豊かな地域とはなにか」、「人間らしい暮らしとはなにか」、そんなことを深く深く考えさせられます。

もちろん答えはそう簡単にはでないのですが・・・。(了)

*字によって、その活動の規模や現状は様々です。本文中の記述が沖縄の全ての字の状況を代表するものではありませんのでご了承下さい。

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